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薫はファインダーを覗き、被写体を探していた。
公園の木や花・・・子供や母親・・・
薫の指がシャッターを押したのは、満面の笑顔で子供に接する保育士さんの姿
何回もシャッターを無意識のまま押し続けた
優しい笑顔に吸い込まれるように・・・

薫は大学3年生
趣味で写真を撮り、個展などを開いている
これは、そんな平凡な女子大生が同性に惹かれるお話し。

薫は1人暮らしの自宅へ戻り、今日撮った写真を現像する
あの優しい笑顔が甦る・・・吸い込まれそうな笑顔・・・
何枚も何十枚もの写真に写り出る、素敵な笑顔

次の日も同じ公園に、カメラをぶら下げ向かった
あの人は、昨日と同じ笑顔で子供達と楽しそうに遊んでる
大きなエプロンをし、髪を後で束ね、満面の笑みで
薫は気付いた・・・
子供が離れると、彼女の表情はとても悲しげなことを
その悲しげな顔をカメラに収めながら・・・
『すごく悲しい顔・・・』
『何をそんなに悲しんでるの?』
ファインダー越しに、薫は彼女と会話をするように、シャッターを切った

来る日も来る日も、薫は彼女を撮りに・・・彼女とファインダー越しの会話をしに公園を訪れた
素敵な笑顔に逢いたくて・・・悲しい表情の原因を知りたくて
知らず知らずの内に、薫は彼女が気になっていた
笑顔が素敵な彼女を
悲しい顔を見せる彼女を
名前も知らない彼女を
声も知らない彼女を

この時の薫は、大きな傷が体中にあった・・・
もっと酷い傷は心の傷だった・・・
彼氏に裏切られ・・・人を信用出来ない程だった
友人や家族にさえ、距離を取っていた

そんな時に、天使のような笑顔を見せてくれる彼女に惹かれた
言葉に出来ない感情・・・優しく、少し切ない感情。
彼女を知りたい・・・私を知って欲しい・・・

学校が休みの土曜日
薫はカメラを持ち、いつもの公園で1人曇り空を眺めた
保育園児の姿は無く、お年寄りがベンチで会話を楽しんでいた
『今日は写真撮れないな〜』
『土曜日だもんね、保育園休みだし、あの人もいないよね』
最近の休みは、こうして1人公園や河川敷で時間を過ごす
人の少ない場所・・・人との距離がある場所・・・

何気無くカメラを構え、辺りにピントを合わせ被写体を探した
お父さんと遊んでる子供
話に夢中なお年寄り
犬の散歩をする人
目を真っ赤にして俯く女性・・・
大きなエプロンではなく、髪も下ろしている彼女・・・
『彼女だ!!』
薫はズームアップし、彼女に近付き、カメラ越しの会話を始める
『どうしたの・・・?』
『大丈夫?』
『そんなに悲しまないで』

彼女は、顔を上げ薫の心の声に反応するかのように、こちらに顔を向けた
薫は『ハッ』とし、カメラを膝に置いた
真っ赤な目でこちらに会釈をした
薫も軽く頭を下げた
ゆっくりと立ち上がり、薫のベンチに近付いてくる1歩また1歩・・・
写真の事怒られるのか・・・顔の傷の事・・・
彼女は、近付くにつれ、悲しげな顔からあの素敵な笑顔に変わっていった
『無理しないで・・・』

薫の前に立つと、
「いつもカメラ持ってますね?プロのカメラマンさん?」
初めて聞く声・・・優しい声・・・
「いいえ・・・趣味で・・・」
「そうなんだ。学生さん?」
「はい・・・。」
薫はベンチの隣の席を、彼女に即した。
彼女は腰を下ろし、鞄から缶コーヒーを2本取り出した
「飲む?ぬるいけど。」
薫は受け取り、一口口に含んだ。
ぬるくて・・・甘ったるい味・・・
「美味しくないね・・・ぬるいコーヒーって」
優しい声、素敵な笑顔で、薫の顔を覗き込んだ
「・・・うん」
薫は、頬を赤らめ答えるのが、精一杯だった
顔の傷を見られないように、角度を気にしながら・・・。
会話らしい会話はしなかった・・・出来なかった・・・
何分も何十分も沈黙が続いた
苦しい沈黙・・・

突然、彼女は両手を高く上げ伸びをした
「うぅーーーん。よしっ!ご飯行こう!」
突然の提案に呆気に取られながらも
「はい!」

2人は少し離れたイタリアンレストランへ
薫はメニューを見て驚いた・・・学生の身分には高過ぎる
『ランチでこの値段・・・全然お金足りない・・・』
モジモジとしていると
「高いでしょー?」
「あ・・・うん。高い」
「うふふ。私が誘ったんだから、気にしないの、食べたい物注文してね」
「・・・悪いですよ・・・」
「良いのよ。1人で食べたくなかったから」
結局、決められずに彼女と同じ物を注文した
彼女の名前は、山谷 里枝。
里枝は、顔の傷に付いては何も聞いてこなかった
泣いてた訳も話さなかった
お腹イッパイに食べ、他愛も無い話を沢山した
保育士の話し
写真の話し
学校の話し
子供の話し
いろいろ・・・一気に距離が縮まった
薫は優しさに包まれ、暖かい気持ちになった

里枝は食事のお礼に、写真が見たいと言ったので、薫の部屋へ招待する事になった
雨がポツポツと振り始めた頃、2人で薫の家へと向かった
まるで、昔からの友人のように・・・

つづく

テーマ : 短編小説 - ジャンル : 小説・文学

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